THE LA PAZ TIMES 2009 特別編 No.3

 

<-    Mexico   THE LA PAZ TIMES 2009 特別編 No.3  La Paz    ->

~TA(ティーチング・アシスタント)から見たメキシコ海外実践教育カリキュラム~


鳥取大学 農学研究科 森林生態系管理学研究室 TA 米川修平

 このメキシコでの実習もいよいよクライマックス!この実習中最も過酷な4泊5日の大遠征を行いました。目的地は南Baja California州の北端にあるSan Francisco山脈で、この山脈にあるEl RatonとEl Palmaritoにて世界遺産の壁画を訪問しました。今回は壁画を見学した2つのサイトで「自然と人間の関係」をメインテーマに学生たちが奮闘した植生調査と、そのデータを元にしたプレゼン発表の模様をお送りしたいと思います!照り付ける太陽の暑さの中、学生たちは無事に調査を終える事が出来るのでしょうか・・・

◎目的
 今回の遠征の大目的はBaja Californiaにおける「自然と人間の関係」を明らかにする事です。そのためまず現地で壁画を見学することで、過去の植生や人間活動について考えました。そしてその周辺の植生を調べることで、樹木のCO2吸収源としての役割を理解し、植生と歴史の2つの観点から考察し、発表するという大変壮大な実習となりました!
樹木のCO2吸収量を知るためには、樹木の太さ(直径)と高さ(樹高)を知る必要があり、1年あたりのCO2吸収量を知るためには樹木の年齢(樹齢)を知る必要があります。学生たちは出発前日にCIBNORの植物学者ホセ・ルイス・レオンから現地の植生を教わって、講義で森林調査に使う道具の使い方や樹木のCO2吸収量の求め方を学びました。


 


◎事前学習 at UABCS

学生たちは遠征の前に、地域学部田川准教授よりBaja Californiaにおけるエネルギー利用を調べるためのアンケート調査の仕方を学び、農学部佐野教授より現地での植生調査の方法と、そのための調査道具の使い方を教わりました。次の日からいよいよ調査の始まりです!

熱心に講義を聞く学生たち 佐野教授より道具の使い方を教わる学生たち

◎いざ、調査へ!(El Ratonにて)
 El Ratonの壁画を求めてSan Francisco山脈へ!標高約300 mまでは主にCardonなどのサボテンが主で、低木はあまりありませんでしたが、標高が上がるにつれてCardonの勢力が衰え、標高600 m位からは低木が少しずつ増えてきて、標高1000 m位からはCirioという木が出現するようになりました。途中、北と南に山がある場所で、北の方の山では陰になるために土壌水分が保持されて植生の密度が高くなっていて、南の方の山では日光がよく当たるために土壌水分が保持されず植生の密度が低くなっている場所があり、佐野教授よりその事に関するレクチャーを受けました。その後、標高1200 m位の壁画付近の集落に到着して調査地に向かうと谷間に何本かQuercus(ナラの仲間)が見られる場所があり、来る途中も谷では植生が多く尾根では植生が少なかった景観が続いていたことからも、乾燥地の植物にとってはいかに水を獲得するかが非常に重要であることが良く分かりました。つまり、乾燥地では少しの違いが大きな影響を及ぼすのではないでしょうか?またここではヤギの放牧による採食が激しいために草本植物が殆ど無く、樹の芽生えもすぐ食べられるために土壌中に有機物が蓄積せず、土壌があまり発達していませんでした。学生たちは標高約1100 m、年間降水量約100 mmのサイトで植生調査、環境調査、樹木調査を行いました。

行きの道は日本では考えられない
広大な荒野でした!

調査前に佐野教授から
この調査地のレクチャーを受ける学生たち

まず5 m×5 mのプロットを設置 サボテンや樹の高さを測定
樹の年輪を調べるため成長錐という道具で
樹のコアサンプルを採取
成功!うまく樹のコアサンプルを
抜くことが出来ました!
El Ratonの壁画、これはDeer(鹿)だと
考えられています
描かれている人物像は皆手を
上に向けていました・・・神と交信中?

◎調査2日目(El Palmarioにて)
 El Palmaritoの壁画と調査地を求め、San Francisco山脈を別のルートで登りました。山を登り始めて最初に気づいたことは、El Ratonと比べて植生が多くサボテン類が少ない事でした。またこのサイトでも標高が上がるとCardonの勢力が衰え、サボテン以外の樹木が多く見られる傾向がありました。さらに、ここではEl Ratonに比べてヤギの放牧による攪乱の影響が少ないため、土壌が発達しており、Tropipcal dry forest(サボテンと樹木が混在した森林)が構成されていました。途中、アニマルトラッキング(動物の痕跡)を発見して、ネズミやウサギ、ヤギ、ウシなどが生息している事を確認しました。これら2つのサイトを通じて、マメ科の植物が多いこと、中には幹が緑色のものや幹を削ると緑色のものもあり、幹でも光合成する種が存在していることが分かりました。こちらの壁画はEl Ratonと比べて壮大で、学生たちはしばらく見とれていました。その後、標高約300 m、年間降水量約50 mmのサイトで学生たちは陽の暮れるまで頑張って調査しました!

こちらの道はサボテンだらけ!

ロバに乗る佐野教授

壁画までは片道1時間半の長い道のりでした・・・ やっと到着!
ここでもバンザイしてりる人物像がお出迎え!

魚(クジラ?)の壁画も発見!
でも、ここは海から遠く離れた山の奥なのに何故・・・
調査開始!直径割巻尺で樹の直径を測定!
超音波測高機で樹高を測定中 成長錐で樹のコアを採取!
 

◎プレゼン準備
 実習後、学生たちは宿舎に缶詰になってパソコンと向き合い、時間がほとんど無い中、皆で必死に議論し、得られたデータを元にプレゼンを作っていました。当日、一体どんなプレゼンを用意してくるのでしょうか!?
 

先生、質問です! 限られた時間でプレゼンを纏めていく学生たち
いよいよプレゼン発表当日! 班員1人ひとりが英語で発表
質問時間!英語で必死に答える学生たち 自分たちの頭で考え、問題解決に近づいていく!

 学生たちはメインテーマを「自然と人間の関係」とし、サブテーマとして「現地の樹木のCO2吸収源としての役割」、「人間が自然に与える影響」を掲げて、この実習で得られたデータからそれらを考察してプレゼンを行いました。ある班は壁画から、過去には人間活動としてヤギが放牧されておらず、今よりも棘のある植物が無く、サボテンも無かったのでは?という予測を立てていました。またある班では、現地の樹1本あたりのCO2吸収量を算出し、その樹が何本あれば何人分の二酸化炭素を吸収できるかを考えたりしていました。このプレゼンを通じて、学生たちは限られた時間の中で「何が大切で何をどのように伝えたらいいのか?」ということを学べたと思います。
 最後に、今回の実習で学生たちは自身の問題解決能力を大幅に向上させたと同時に、物事を考える視野を広げられたのではないでしょうか?そういった意味で、このメキシコでの実習は学生たちにとって非常に意味のあるものであると思います。
 

 

2009年度ラパス便りTOPへ