メキシコ海外実践教育カリキュラム 特別編

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~Espiritud Santo島でのエコキャンプ~

Espiritu Santo特集              


メキシコでの3ヶ月間で、学生が最も楽しみにしているであろうEspiritu Santoでのキャンプ。これに参加できなければ来た意味が無いという人もいるほど学生が楽しみにしているイベントです。しかし、これはあくまで授業であり実習です。遊びではありません。ではどのあたりが遊びとは違うのか、ここで紹介したいと思います。

 まず今回の実習の目的は「エコツーリズムの体験から海中や海岸地帯の生態系、あるいは環境を学ぶ」ということにありました。ところでエコツーリズムって聞いたことがありますか?「エコ」という響きから環境に良さそうですが、一体どういうものをいうのでしょうか?少し説明しましょう。

エコツーリズムとは、
(1)自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光を成立させること。
(2)観光によってそれらの資源が損なわれることがないよう、適切な管理に基づく保護・保全をはかること。
(3)地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方である。それにより、旅行者に魅力的な地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていくことを目的とする。

参考文献:日本エコツーリズム協会http://www.ecotourism.gr.jp/ecotour.html
 

 


これはつまりどういうことなのか、最後にまた説明します。

クリックして拡大  では、今回のエコツーリズムの舞台であるEspiritu SantoIsland(エスピリトゥ・サント島)とはどのような場所なのでしょうか?

Espiritu Santo Islandは、La Pazの北に浮かぶ大きな二つの島とその周辺にある無数の小島から成っています。現在は無人島ですが、古くは人が住んでいました。また、大航海時代にはスペイン人が島に滞在していたこともありました。それらの時代の痕跡が島のいたるところで発見されていることから、歴史的・文化的価値が非常に高い島であるとされています。
また、このあたり一帯は海と島々に囲まれた生物達の楽園となっており、世界中でここでしか見られない生物も数多く存在しています。ゆえに、生態学的にも非常に価値が高い地域と考えられています。そのため、メキシコ連邦政府によってカリフォルニア湾岸の植物および動物保護地域の一つに指定されています。また全域が世界自然遺産「カリフォルニア湾の島々と自然保護区」にも含まれています。従って、この地域では利用に際していくつかの活動規制も行われています。それはいずれも生態系への人的影響を最小限に抑え、持続的な利用を行うための措置であり、具体的には以下のように定められています。]


<禁止事項>
 水上スキーの乗り入れ、ガイドの許可なしでの生物への接触、焚き火、外部からの生物の持込み、生物の餌付け、歴史的遺産の持ち出し(←文化・歴史的価値の保護のため)
<許可事項>
スキューバダイビング、シュノーケリング、シーカヤック、指定された場所でのキャンプ

 以上のようなことを事前学習で説明を受け、生徒たちはエコツーリズム体験へ向かいました。

 

 

 ラパス港から出港し1時間半、キャンプサイトに到着です。2日間ここが拠点となります。

ここでみんなのお世話をしてくれた現地スタッフの紹介をしておきます。

イヴァンさん(キャンプサイトの管理人) イヴァンさん(船のキャプテン) ジェフさん(船のクルー)

左から、キャンプサイトの管理人のイヴァンさん。船のキャプテン、この方もイヴァンさん。そして船のクルーのジェフさんです。それと写真がありませんが、日本人のスタッフでタカコさん、ヨシエさんのお二人と、あとお二人、船のキャプテンにお世話になりました。皆さんBaja Paradiseというペンション経営兼ツアー会社のスタッフです。

今回のキャンプでは大きく4つのセクションを設けて活動を行いました。
1) シュノーケリングによるEspiritu Santo Islandの海洋生物の観察
2) シーカヤック体験およびマングローブの観察
3) Espiritu Santo Islandの植生調査
4)Espiritu Santo Islandにおける陸上の動植物の観察


順に説明していきます。

1)シュノーケリングによるEspiritu Santo Islandの海洋生物の観察

キャンプサイトに到着すると、ヨシエさんのガイドのもと、早速シュノーケリングの練習が始まりました。ここで1つ重要な注意事項がありました。
・ ガイドの許可なしで、勝手に海洋生物に触らないこと
海には多数の危険な生物が生息しています。また本来人間は、海の生態系にいるはずの無い部外者ですので、むやみやたらに刺激せず、海中を見せてもらっているという気持ちで接するよう、心がけるという意味です。


シュノーケリングの様子


 

 
Los Islotes の様子 *白いのは鳥の糞(雨がほとんど降らないため流れ落ちない)

キャンプサイトの浜辺で基礎的なシュノーケリング技術を練習した後、今回のシュノーケリングの目玉であるアシカを見るため、次の目的地に向かいました。キャンプサイトから船で30分ほどのところにある、アシカのコロニーが見られるLos Islotes(ロス・イスロテス)という島です。ここはアシカが間近で見える世界でも有数のポイントの一つですが、その重要性から島はいくつかのエリアに分けられ、それぞれに下記のような利用のルールが定められていました。

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■: 岸から0~約5m(15ft)以内で、ボートの進入、係留および遊泳を禁ずる。

■: 岸から約5~30m(15~90ft)以内でボートの進入、係留を禁ずるが、遊泳は許可する。

■: 岸から0~約5m(15ft)以内でボートの進入、係留を禁ずるが、遊泳は許可する。

●: 係留用のブイ(船は必ずここに係留しなければならない)

●: 目印用のブイ

 

スタッフを含め、参加者は皆これらのルールの遵守を徹底しました。ここに限らず、エコツーリズムではルールを守って適切な利用を心がけることが大切です。そうでなければ利用客はガイドおよび地元の人々からの信頼を損ない、エコツーリズムは成立しなくなる恐れがあります。
さてさて、堅苦しい話もほどほどに、ここでのシュノーケリングの様子をお見せしたいと思います。


Los Islotesは周囲約1㎞~2kmほどの小さな島ですが、アシカが400頭も生息しており、彼らの楽園が形成されています。そのようなところにお邪魔するのは申し訳ない気がしますが、人間がきちんと決まりを守って接することで彼らもストレスを感じず、むしろ興味をもって近づいてきてくれることあります。おかげで私たちはアシカたちのありのままの姿を観察することができました。そしてこれからも彼らの繁栄が守られ続けることを願いながら島をあとにしました。 Hasta luego~

キャンプサイトに戻ると、イヴァンさんの作ってくれたおいしいランチで腹ごしらえ。そして、午後からはシュノーケリング班とシーカヤック班に分かれての活動でした。

2)シーカヤック体験およびマングローブ観察

 このセクションの主たる目的はエコツーリズムにおけるシーカヤックの重要性を理解することです。シーカヤックは自転車などと同様に動力は人力です。それは単に燃料などのコスト面の問題だけではなく、騒音や大気汚染が他の移動手段より格段に少ないため、環境への負荷を極端に抑えられるところに最大のメリットがあります。また、このセクションでは海上から生物や岸壁の地層などの観察を行いますが、シーカヤックはスピードがゆっくりであるため、観察対象をじっくり見ることができ、新たな発見を促すことにも役立ちます。今回もEspiritu Santo Islandの海岸線に自生するマングローブを海側から植生を破壊することなく観察することで、マングローブの特徴について勉強するとともに、世界のマングローブ林がエビの養殖場の建設や炭の材料とするため伐採され、減少しているという事実も日置教授から説明を受けました。

 とは言うものの、この話が理解できるかどうかは乗ってみないとわかりませんね。ということで日置教授の指導のもとシーカヤック体験スタートです。
 

 

波のある中で、初めはパドルを使ったカヤックのコントロールに苦戦する学生もいましたが、最後にはほとんどの学生がカヤックを操れるようになったようでした。時間の関係上、操作に慣れたところで終わりになっている班がほとんどだったのは残念でした。しかし、鳥取でも浦富海岸などで体験できますので、これからも積極的にチャレンジしてみてください。普段、陸上や他の船からではわからない新たな発見が待っています。


 これで一日目が終了です。夕食まで時間があるので、キャンプサイトの管理人であるイヴァンさんに島の歴史的遺産の1つを案内してもらいました。イヴァンさんの話では、これは大航海時代にスペイン人がこの島へたどりついたときに水の確保に困ったために自分たちで掘った井戸だとのことでした。500年ほどたった今でも現役で訪れる人々の生活用水として利用されています。私たちもこの井戸を利用させてもらうことにしました。

 

そうこうしているうちに、コルテス海に夕日が沈みます…

ちなみに現地のガイドの人たちの話では、夕日が沈みきるときに願い事をすると必ず叶うそうですよ。
 

さぁ二日目です。いままでのセクションは海中心でした。しかし、2日目はフィールドを陸上に移して行いました。まず、午前中に島の植物の調査を行いました。

3) Espiritu Santo Islandの植生調査

メキシコは乾燥地でサボテンというイメージが強いと思いますが、どこもかしこもサボテンばかりではありません。ここでは植物とその生育環境との対応関係を簡単な調査によって明らかにするのが目的です。日置教授の指導の下、砂浜から山裾の始まりまで、長さ90m×幅1mのラインを張り、その中に生えている植物の変化を調査しました。ラインは4分割されており、学生たちはグループに分かれて担当エリア内で生えている植物の高さ(H)と幅(W)を、またその植物の名前を、図鑑などを基に記録・同定しました。

調査の際はここが植物保護地域であり、普段は砂浜以外立ち入りできないことを頭に入れ、植物を踏み荒らしたり、折ったりしないよう気をつけながら行いました。調査をすることによって環境を破壊してしまっては意味がないからです。 現地での作業は概ね1時間半で終了しましたが、寮に帰ってからさらに詳細な解析も行いました。当初の目的について、学生全員が自分なりに理解が得られていることに期待しています。


そろそろキャンプも終盤です。最後のセクションに入ります。


 



4)Espiritu Santo Islandにおける陸上の動植物の観察

現地のスタッフ、ジェフさんの案内で島に生息する動植物の観察ツアーにでかけました。
一見荒涼とした大地ですが、トカゲやホコリムシ、リスなど多くの動物が生息しています。さらに、上空を見上げるとコンドルが旋廻している様子をみることもできました。青い空にコンドルの姿がよく映えて印象的でした。また植物はさまざまな種類のサボテン、乾燥した環境に対応できるよう葉を小さくした植物、天然のいちじくなど多くの植物を見ることができました。

 

 

以上でエコツーリズム体験の内容はすべて終了ですここでもう一度今回のキャンプの目的を振り返ってみます。

2日間で、大きく4つのセクションの活動を行いました。参加した学生たちはその中で自然の雄大さやすばらしさを随所で味わい、きっと素直に自然に感謝し尊敬する気持ちが出てきていると思います。しかしただそれだけでは単なる自然観察ツアーで終わってしまいます。これをエコツーリズムとして捉えるにはもっと大きな視野でこのキャンプを見ていく必要があります。
今回、私たちはいろいろと定められたルールを守りながら島で活動を行うよう注意しました。しかし、決められたルールを利用者にきちんと遵守させるためには監視員、つまりガイドが必要となってきます。しかし、ガイドもボランティアでは成り立ちません。彼らはガイドとして利用者への適切な解説や知識の享受により、報酬を得ることができます。その報酬があるからこそガイドは常にEspiritu Santo Islandに常駐でき、彼らの活躍で自然は守られていくのです。また私たち利用者が彼らに支払うガイド料の中には彼らがメキシコ政府に納めるお金も含まれており、そのお金によって政府により環境も保護されています。だからこそ私たち利用者は持続的にその自然を利用でき、感動や尊敬する気持ちなど普段味わえないような感情または体験を得ることができるのです。このエコツーリズムの仕組みを理解できてこそ、はじめてエコツーリズム体験は成功といえるのではないでしょうか。

 

お疲れ様でした・・・・・・

(農学研究科生態工学研究室TA千布拓生)

※ここで紹介した流れはある1つの班の様子

であり、順番は班によって異なります。