The La Paz Times |
特別編2 |
フィールドワーク:The Nature Reserves and Eco-tourism at The Sea of Cortez
「コルテス海の自然保護区とエコツーリズム」
TA(ティーチング・アシスタント)
農学研究科2年 菌類資源生態学研究室 佐々木 優
10月、愛知県名古屋市でCOP10(生物多様性条約第10回会議)が開催されました。 COP10とは、生物多様性について世界レベルで行われる会議であり、開催中は世界各地の190を越える国や地域から約7000人にのぼる人々が集まって、生物多様性を維持し、将来にわたって資源を利用し続けられるように話し合いました。
COP10の目的は、
地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること
生物資源を持続可能であるように利用すること
遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること
の3つです。
現在、人間の開発による環境破壊や、別の土地や国から持ち込まれた外来生物などの影響によって、多くの生態系が破壊され、生物の種数と個体数は地球規模で激減しています。
中には絶滅の危機に瀕している生物種(絶滅危惧種)も多くあり、日本だけでも絶滅危惧種は約3000種にものぼると環境省によって報告されています。
地球上に多種多様の生物が豊かに存在している状態(=生物多様性)を維持する方針を打ち出し、世界全体でひとつの考えを共有するためにCOP10は大変重要な場なのです。
生物多様性を維持しようという働きはメキシコでも行われています。
例えば、La Pazがあるカリフォルニア半島には他の地域にはない珍しい動植物(固有種)が多く存在しているため、国外からだけでなく、メキシコ本土からでさえ半島の生物を持ち込むことはできません。また、国外や本土への生物の持ち出しも禁止されています。
さらに、La Pazが面するカリフォルニア湾(コルテス海)は、ジンベエザメやマンタなど多くの大型魚類が多く生息し、野生のカリフォルニア・アシカの生息地もあるなど、海洋生態系が豊かで美しく、ここでしか見られない生物も数多く存在しているので非常に価値の高い海とされています。
そのため、メキシコ連邦政府はカリフォルニア湾に面した多くの場所を保護区に指定し、生態系が破壊されないようにしています。
また、それらは2005年に「カリフォルニア湾の島々と自然保護区」として世界遺産に登録されました。
世界的にも美しい世界遺産の海には、ダイビングなどのマリンスポーツを楽しむため、毎年、世界中から多くの観光客が訪れており、La Pazはマリンスポーツのできる街として、観光業で大きく発展している場所でもあります。
しかし、観光業が発展すればするほど、そこにあった美しい自然環境が破壊されてしまう事例は多くあり、観光振興と環境保護のバランスを上手くとっていくことは簡単なことではありません。
ところが、海の自然を売りにしたLa Pazの観光業は環境保護と非常に上手くバランスをとりながら発展しています。
そのキーワードになるのが「エコツーリズム」です。
今回の実習では、実際にカリフォルニア湾に浮かぶ無人島でのキャンプを通して、自然保護とエコツーリズムの現状を調べ、生物多様性保全と観光振興の両立について考えることが目的です。
ところで、皆さんはエコツーリズムについてご存知ですか?
聞いたことはあるけれど、実際に何を指している言葉なのか分からない・・・という方も多いと思います。
簡単にご説明しましょう。
「エコツーリズム」とは・・・
地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく“仕組み” を指す言葉です。
(参考 環境省:http://www.env.go.jp/nature/ecotourism/try-ecotourism/index.html)
また、日本エコツーリズム協会(http://www.ecotourism.gr.jp/)では
1. 自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光を成立させること
2. 観光によってそれらの資源が損なわれることがないよう、適切な管理に基づく保護・保全をはかること
3. 地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方である
とし、
“それにより、旅行者に魅力的な地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていくことを目的とする”
と定義付けています。
つまり、観光振興と美しい自然や貴重な文化の保全保護とのバランスを上手く取りながら地域を発展させる仕組みがエコツーリズムなのです。
日本に比べ、メキシコではこの仕組みが政府指導でしっかりと確立されています。
今回キャンプをするIsla Espiritu Santo(エスピリトゥ・サント島)は、自然生態系の価値が高いことから、メキシコ連邦政府によってカリフォルニア湾岸の植物および動物保護地域(Flora and Fauna Protection Area)として指定されている場所のひとつ。
また、ここはかつて原住民が暮らし、大航海時代にはスペイン人が島に滞在したいました。
その時代の痕跡が残っていることから、歴史的・文化的価値が非常に高い島でもあるとされています。
さて、このフィールドワークですが、実は今年で5回目。
メキシコ研修の恒例の実習であり、メキシコの自然やメキシコらしさを肌で感じられるとあって、学生が楽しみにしている実習の一つでもあります。
過去の学生の活動についてはこちらから↓↓
2008年度:http://www.ciatu.tottori-u.ac.jp/hqis/pages/mx_letter_ver_special_eco.htm
2009年度:http://www.ciatu.tottori-u.ac.jp/hqis/pages/mx_letter09_sp.htm
フィールドワークの舞台であるIsla Espiritu Santo はLa Pazの街から北へ約50 km、船で1時間半ほど離れた海に浮かぶ無人島です。
保護区であるこの島では、定められた禁止事項と許可事項に従って活動を行います。
島やその周辺の自然に大きなダメージを与える活動が禁止され、ダメージが小さい活動は許可されています。
具体的には以下のような感じです。
■禁止事項■
・水上スキーの乗り入れ ・ガイドの許可なしでの生物への接触
・焚き火 ・外部からの生物の持込み
・生物の餌付け ・歴史的遺産の持ち出し
(文化・歴史的価値の保護のため)
■許可事項■
・スキューバダイビング ・シュノーケリング
・シーカヤック ・指定された場所でのキャンプ
今回の実習は大きく以下のポイントに分けられています。
1. 島の植生観察
2. キャンプサイトより島内陸へハイキング
3. シーカヤックとシュノーケリングで島の周辺の海を探検
4. シュノーケリングで野生アシカを観察
島には内陸から海岸にかけて枯川が存在し、他と比べるとその周辺の植生が一番豊かです。
それは雨季に枯川に水が流れ、他の場所より水が豊富に存在するためだそうで、マングローブやサボテン、イチジクの一種の他にも様々な低木が見られました。
また、世界に100個体しかなく、その全てがIsla Espiritu Santoに存在するという、非常に珍しい種類のアカシアを観察することができました。
シュノーケリングは道具の使い方や水が入ってきた時の対処の仕方の他に、海に住む危険な生物には決して触らないよう注意をうけました。
実際、海に入ってみると、触ってはいけないと言われていた危険なカサゴ(写真右下)と遭遇!!!
海の中は美しいけれど、危険もいっぱい潜んでいることを学んだ学生でした。
1時間程したところで交代し、学生たちは海の探検も大満喫した様子。
盛りだくさんの2日目も終わり、残すところは一番楽しみにしていたアシカの観察のみ。
明日はどんな一日になるのでしょうか・・・。
¡Buenos días!
疲れていたためか、あっという間に朝です。
島のキャンプも今日で最後!
気合を入れて、楽しみにしていたアシカ観察に出かけます。
4.シュノーケリングで野生アシカを観察
朝食を食べたら後、これから行く野生アシカの生息地、Los Islotes(ロス・イスロテス)でのルールとアシカ観察について、スタッフのタカコさんからの説明と注意を受けました。
Los Islotesはアシカが間近で見られる世界でも有数のポイントであり、その重要性から島はいくつかのエリアに分けられ、それぞれに下記のような利用のルールが定められています。
アシカは非常に警戒心が強い動物であるため、観察する際にはむやみに近づいたり、追い回したりと恐怖を与えるような行動は絶対にしてはいけません。
アシカ自らが接近してきた場合にのみ、手を差し伸べたりしてアシカと戯れることができます。
この時期は今年生まれたアシカの赤ちゃんが少し大きくなり、色々なものに興味を持っている頃なので、場合によっては一緒に泳いだり、腕を甘噛みしたりしてくれるのだそうです。
また、Los Islotesはアシカの他に、周囲に鳥や魚も多く生息しているため、様々な生物を一度に観察することができる非常に貴重な場所でもあるとのことでした。
Los Islotesには私たちの他にたくさんのダイバーが来ており船が大混雑!!
世界的に有名なポイントであり、多くの観光客が訪れていることを目の当たりにしました。
お昼にはキャンプサイト戻って昼食を食べた後、テントを畳んで帰り支度。
船でLa Pazへと出発です。
イヴァンさん、アランさんとはここでお別れ。
彼らは私たちの乗った船が見えなくなるまで見送ってくれていました。
出会って二日の付き合いだったけれど、その心温まる光景にメキシコ人の優しさを感じた瞬間でした。
たった二泊三日ではあったものの、自然保護と観光振興の両立について学び考察する多くの機会に恵まれたキャンプでした。
島の自然は雄大かつ個性的で、景色は美しく輝いていました。
しかし、その自然を見、島でのルールを守ってキャンプをしたという経験だけではエコツーリズムの本質に触れたことにはなりません。
私たち旅行者が島で活動をするためには決められたルールと利用に関する適切な説明をガイドから受ける義務があり、また、ツアーガイドには旅行者に利用ルールを説明し、彼らがそのルールを守って行動しているか常に監視する義務がありました。
ツアーガイドはその義務を果たして報酬を得ることで観光業を仕事として生活していけます。
そして、お金をかけて旅行者が来る姿を見ることで、自分たちの地域に存在する自然財産の価値についてより深く理解し、その結果、現地ガイドを中心として自然が守り育まれていく。
また、ガイドの報酬の一部はメキシコ政府に納められ、旅行者が政府に支払うお金と共に、もっと大規模な保護活動に生かされます。
そうやって自然環境の価値が正しく理解され、保護されることによって旅行者は持続的に美しい自然を利用でき、観光業で地域も発展していく。
旅行者・ツアーガイド・政府の三者がしっかりと関わりあいながら自然を守り観光で地域を発展させる仕組み、これがエコツーリズムなのです。
メキシコではこのエコツーリズムの概念が見事に形となって存在していました。
日本でもエコツーリズムの考え方は存在するものの、具体的なルールを定めることは各自治体などに任されているため、曖昧になっている部分も多く、エコツーリズムという言葉が独り歩きしている感じを覚えることもあります。
私たちはメキシコのエコツーリズムから学べることが多くいのではないでしょうか。
学生の皆さんにとっては具体的なエコツーリズムを学ぶことができた良い機会になったと思います。
この経験を日本に帰国してからも生かしてもらいたいですね。
最後になりますが、今回キャンプを行うに当たって、Baja ParadiseのスタッフのみなさんとJose Luis Leon先生、その他たくさんの方にご協力をいただきました。この場をかりてお礼申し上げます。 ¡¡Muchas gracias para todos!!